「外国語は機械翻訳があれば十分」!?
最近たびたびこんな声を聞くのです。機械翻訳があれば翻訳を頼む必要などない、と。
無料で使える機械翻訳の代表格はGoogle翻訳かと思いますが、精度がだいぶ上がってきているといいます。厳密な訳は必要なくて、なんとなく意味が分かればそれで良い…という場面であれば、たしかにそれで十分なのかもしれません。クリック1つで簡単に訳語が得られて手軽ですし。
一方、翻訳を仕事にしている人たちからは、「機械翻訳なんて使えるはずがない」という非難の声が聞こえてくることもあります。人間の言葉の中には、機械で簡単に割り切れないような感情の動きや文脈依存の表現なども含まれるわけで、私たち「人間」翻訳者は、そういったことまで考えて翻訳を行っているわけです。
機械翻訳の使えるところ、使えないところ
現状の機械翻訳サービスを見ている限り、現段階で機械翻訳が使えるのは、以下の2つではないかと思います。
1.自分だけなんとなく意味が把握できれば問題ないもの
上述しましたが、厳密な翻訳が必要なく、なんとなく意味が分かれば良い、そして誰かと共有する必要もないような文章なら、ある程度機械翻訳でも対応できる場面がある(出てくる)かもしれません。
2.決まったパターンの文がたくさん出てくるもの
頻出パターンをデータベースとして登録しておけば、次に似たパターンの文が出てきた場合、同じように翻訳すれば済みます。公式に当てはめるような作業は、機械の得意分野ではないでしょうか。うまく使えると、作業が効率化できそう。
一方、やっぱり機械翻訳では難しいのでは?ということもたくさんあります。
1.小説やエッセイなど、人の感情が多く扱われているもの
機械が感情を完全に扱えるようになる時代は来るのでしょうか(来たら来たで怖いことのようにも思いますが…)。やはりここは人間の手が必要ではないかと思います。映画の字幕などもそうですね。
2.公式文書や他人に読んでもらう文章など、厳密な翻訳が必要なもの
まだまだ機械翻訳は厳密な翻訳ができるレベルには到達していないと感じます。正確な翻訳がないと、他人とやり取りする際に誤解が生じたりして、問題になってしまう可能性が高いため、翻訳者・翻訳会社に依頼する必要があります。
3.キャッチコピーやジョークなど、言葉を直訳しただけでは通用しないもの
例えばキャッチコピー。いくら言葉を正確に直訳しても、セールスの足しにならないコピーでは意味がありません。例えばジョーク。言葉を素直に訳しても通じないことが多いです。機械に文化的な背景や文脈まで考えられるのかどうか…疑問符が付きます。
そういうわけで、まだまだ人間の手で翻訳しなければならないものは多いですし、将来的にも人間でないと扱えない部分は残るのではないか、というのが一般的な考えかと思います。
作業を効率化すべく、いったん機械翻訳にかけてから、人間の手で修正をかけていくという方法も考えられます。今後、機械翻訳の精度がますます高まった場合には、こういった方法が主流になるような気もします。ただ、現段階では、まだ機械翻訳の精度がそこまで高くはないため、人力で修正するための労力が大きく、結果的に時間やお金のロスが増えてしまう可能性も。
※他人(機械を含む)が翻訳したものを修正する作業って、思った以上に大変なんです!中途半端な質のものなら、0から翻訳し直したほうが、翻訳者としては楽なことも多いんですよね…。
そんなわけで、「機械翻訳はまだまだ使えない場面のほうが多い。ただ、今後は機械+人間のタッグで翻訳する機会が増えるかも?」というのが現段階での考えでしょうか。
「人間」翻訳者がやるべきこととは
ただ、私たちはいろいろな側面で、過去には想像もつかなかった現実を手に入れてきました。技術の進歩・発展というのは本当にものすごいなと感じます。
それを考えると、機械翻訳の世界でも、今後とんでもない技術が開発されたりするかもしれない。そう思うと、1人の「人間」翻訳者としては、「使えない」「機械にできるはずがない」などと言っている余裕はあまりないのではないかと思うのです。
機械翻訳のしくみや動きから目を離さないようにすることはもちろん、機械が到達できないレベルの翻訳者でいられるように努力を続けるのみだなあ…とますます強く感じる今日この頃です。
【機械翻訳に関するその他の翻訳コラム】
主に治験関連文書、医学論文、医薬関連企業のプレスリリース、医療関係の教材・資料等を翻訳。医療・ヘルスケア関連の編集、ライティングも行っています。