英語ができる=翻訳ができる!?
「翻訳の仕事をしている」と言うと、たいてい真っ先に返ってくる反応が「英語ができるんですね」です。
たしかに、翻訳者である以上、英語(やその他の外国語。私が英語の翻訳者なので以降「英語」と書きます)ができることは必須条件です。「英語が得意だから、英語力を活かして翻訳者になりたい」という人も多いように思います。
また、「英語ができれば翻訳もできるはず」という考えからか、「英語できるんでしょ?この文章ちょっと訳しておいて」というようなやり取りを会社の中などで耳にすることもあります。
翻訳=英語。それが一般的なイメージなんですね。
そのイメージ、たしかに理解はできるのです。
でも、実際に翻訳を仕事にしている身としては、将来翻訳者になりたい人にも、翻訳が必要な文書がたびたび発生するという人にも、
翻訳には「英語力」というより「言語力」が必要
とでも言えばよいでしょうか、とにかく英語は必須条件の1つに過ぎないということをお伝えしておきたいと思います。
「英語力」よりも「言語力」
もう少し具体的に言うと、「英語力」のみならず「日本語力」が必要なんですね。
英語を日本語に訳すのであれば、英語を正確に解釈する力だけでなく、それを的確な日本語に置き換える力が必要です。
いくら原文の英語を正しく理解できたとしても、日本語にする段階で失敗してしまったら誤訳と同じですし、まるで機械が翻訳したような不自然な日本語では、翻訳した文書を読む人に苦痛を与えてしまいます。また、文書の種類や読み手によって、適切な日本語も変わってきます。きちんとした堅い日本語がふさわしい場面もあれば、口語的にやわらかく訳すべき場面もあるでしょう。
日本語を英語に訳す場合も、日本語の力は必要です。日本語で書かれた内容を正しく理解できなければ、正しい英訳はできないからです。
英訳をする場合、翻訳者の仕事は、原文の日本語を1つ1つ紐解くことから始まります。特に、日本語は主語を明示しなくても通じてしまう言語ですが、英語の文には主語が絶対必要です。書かれていない主語を正確に捉えて補えなければ、正確な英語に変換することができないのです。
日本人なら当たり前のように使っているはずの日本語。しかし、「誤解を与えない適切な日本語を書けるかどうか」「日本語の文章を、空気を読むようなふんわりした理解ではなく、はっきり具体的に理解できるかどうか」といったことをいざやるとなると、意外と難しいのです。私自身、翻訳を10年やってきても、日本語に苦労させられることは多いものです。
良い翻訳をするには多方面のスキルが必要
実は、翻訳は英語や日本語の能力だけでできるわけでもありません。他にもさまざまなスキルが必要です。
例えば、自分が専門とする分野の知識。私は医薬関係の翻訳者ですが、医学部や薬学部の出身ではありませんので、医薬翻訳の講座や医学書などを通して、基本的な知識を身につけました。詳しくない分野の案件が来れば、そのたびに勉強です。
例えば、わからないことがあった場合に調査する力。知りたい内容がどこにあるのか、本を見ればいいのか、ネット検索で良いのか、ネット検索なら、玉石混合の情報からどうやって正確な情報を見つけるのか。
翻訳って言葉の仕事だと思われがちで、たしかにそのような側面が大きいのですが、言葉だけではできない仕事が翻訳です。複合的なスキルでようやく成り立つ仕事なんです。
だからこそ、私たちのような翻訳のプロが存在するわけですし、大事なときほど、トランスマートをはじめとした翻訳業者や翻訳者を頼ってほしいなと思うのです。
主に治験関連文書、医学論文、医薬関連企業のプレスリリース、医療関係の教材・資料等を翻訳。医療・ヘルスケア関連の編集、ライティングも行っています。