自分の翻訳の仕事を説明するときに
「機械の取説の翻訳をしています」というと、
必ずと言っていいほど「専門用語とかたくさんあるのにすごいね!」と言われます。
(じゃあ英語ペラペラなんですね~。とか、映画字幕ナシで見れるんですね~!とか、
翻訳とかけ離れたことも結構言われるので、
翻訳業ってあまり知られていないんだなぁと少しさみしく思うところもあります笑。)
今回はそんなことではなくて。
用語なんて、何ともないんです。
原稿中に出てくる用語に関しては、用語集などをもらうので
その中から探して使う。ということがほとんどです。
大切なのは、それがどういうものかを読み取り調べる力と、言葉を選ぶ際のルールを身につける力。
そしてそのルールというのは、仕事によって変わるので
その都度頭をすっきり切り替える必要があります。
それらはローカルルールなどと呼ばれます。
これと合わせて、自分の中にも翻訳の基準となるものを持っています。
私の翻訳者としての基準は、「シカゴマニュアル」というスタイルブックです。
これは、英文を書くにあたって守るべき詳細なガイドラインや、
語法・文法などが記載されており、定番のスタイルブックとして世界標準ともされています。
翻訳の勉強を始めたころこの本の存在を知り、
とても分厚く重たい本ですが、本屋で買ってなんとか持ち帰り、
時間も忘れて読み込んだ時期がありました。
今でも、何か気になることがあるときは、この本に立ち返るようにしています。
昔、取説作成の仕事を始めたころ、長い説明文の途中に
「2 units are required.」のような文章が出てきたことがありました。
とても違和感があったので、家に帰って数字についての部分を読み返してみると、
数字について記述してある項目に
When a number begins a sentence, it is always spelled out.
「数字で文章を始める場合は、必ずスペルアウトすること。」
おおお!これが記憶に残っていたのかー!と感動。
翌日これをもとに先輩に聞いてみたら
「取説は読み物じゃなくて、それを見ながら何かの操作とか作業をするものだから
パッと見て分かりやすいように数字はアラビア数字で書くんだよ。
それにこの英文は多言語に翻訳されるから、翻訳チェックしやすいようにアラビア数字で残すの。
それにしてもちょっと見かけ的にはよくないけどね。」
と教えてもらいました。
ローカルルールはシカゴマニュアルを超える!
この場合はこれがルールなので、この文章はもちろん修正ナシとなりました。
見かけ的には悪いですが…、しょうがないですね。
日本語の取説にも、どうしても気になるところがありました。
「水に濡らしたり、湿度の高い場所に置かないでください。」
今、Wordでこの原稿を作っているときにも下線が出ています(笑)
小学校くらいで習った「~たり、~たり」の書き方ですね。
取説では、文章を簡潔に見せるため、後半の「たり」が無くてもOKだそうです!
なので上記の文章ももちろん問題なし。
このように、一般的なルールや自分では常識だと思っていることが
全く当てはまらない場合もあるという場面に何度も遭遇してきました。
翻訳において大切なことは
依頼側のニーズを満たすということ。
どうしても間違っている場合はもちろん指摘はしますが
それでもそれでいいと言われる場合はそうするしかないのです。
「過去の取説とズレが発生しては困るから」という理由で
間違いでもそのまま流用してくれと言われることもよくあります。
これを「柔軟な対応」と呼ぶのかどうか、いつも疑問に思うところではありますが、
依頼側が決めたルールに沿った最良のものをお渡しできるというのが
機械翻訳ではなく「翻訳者だからできる翻訳サービス」なのかな、と思っています。
機械関係の取扱説明書や仕様書などの翻訳をメインに行っております。子どもたちが学校の間と、夜中に作業をしています。 どうぞよろしくお願いいたします!