皆さんは、家電やソフトウェアなどの取扱説明書(以下「取説」)はよく読まれますか?
私は読むのも書くのも大好きです。
(でも業界的には、"取説が無くても使えるような製品”を作ることが最終目標だそうですが…。)
取説は、製品が出来上がってから作るのではなく、
その製品と平行して作られることがほとんどです。
そのため、翻訳の原文に何度も修正が入ったり、
またその原文もまだ最終版ではないので間違っていることもしばしばあります。
この点が、取説の翻訳が記事やメールなどの原文がきちんと出来上がったものの翻訳と
大きく異なる点だと思います。
最終的に製品が出来上がって原文も最終版になってから取説を作ればいいのに、
と思ったこともありましたが、
製品の出来上がりとともに、印刷まで仕上がった取説を箱に入れて出荷したり、
オンラインで公開したりしてすぐに使えるようにするため、
どうしても平行作業が必要となるそうです。
また、取説はユーザーが製品を使用するときに見るだけのものではなく、
制作途中で製作者が「取説通りにモノが動くか」などの製品のチェックを行っていたり、
製品側で出た不具合っぽいものを取説でごまかす…、いえ、
ユーザーが困らないような説明を加えたりするためのものでもあります。
(例:○○中に~することがありますが、不具合ではありません。のような文章)
このように取説の翻訳は、単なる翻訳作業だけでなく、
「モノづくりの流れの一つ」としてとらえる必要があると私は思っています。
そのため、翻訳作業の際には、あまり大きな声では言えませんが、
原文を信じすぎないようにしています。
(間違いは気にせずとにかく原文通りに訳せ、と指示されたときは別ですが。)
それはどういうことかというと…。
翻訳チェックの段階で見つけた例を1つ紹介します。
ネジ②を取り外します。
Remove the screw (2).
この文章、英語的には何も間違っていないのですが、
正しくは
Remove the screws (3).
でした。
説明文の下に、取付け指示図とパーツリストがあり、
そちらで確認すると、②ではなく③から2本の引き出し線が出て、2つの「ネジ」を指していました。
英語の特徴である単複の書き分けや、単なる原文の数字ミスが含まれていたのですが、
翻訳者は原文の日本語のみを見て翻訳を行ったため、これらに気づくことができませんでした。
原稿内で確認できる範囲でよいので、単に翻訳作業を行うだけではなく、
前後の内容にズレが無いか確認しながら作業をすると
取説全体の完成度を高めるお手伝いができるのでは、と私は思っています。
製品や取説の作成者たちの愛の詰まった取扱説明書、
「読まなくても大丈夫」と言わず、細部まで読み込んでいただけると、とても嬉しいです。
機械関係の取扱説明書や仕様書などの翻訳をメインに行っております。子どもたちが学校の間と、夜中に作業をしています。 どうぞよろしくお願いいたします!