トランスクリエイションに挑む際の(私の)心構え

執筆:
POPA

トランスクリエイションという言葉自体は半世紀ほど前から存在していますが、その定義は未だに明確ではありません。けっきょくどこがどう翻訳と違うのか、というところの線引きが難しいのです。

「翻訳」と「ライティング」という2つの異なる作業を組み合わせたものという説明がわかりやすいようですが、そのバランスはクライアントの意向、発注者との信頼関係、ドキュメントの種類などによって案件ごとに異なります。

 

私は翻訳の仕事とは別にマーケティングコンテンツやセールスコピーのライティングを行っていますが、それぞれの作業に挑む際の心がけには大きな違いがあります。あえて一言ずつで説明するなら、「翻訳はとにかく慎重に」、「ライティングはできるだけ大胆に」、というところでしょうか。

 

一言半句の意味やニュアンスを見落とさずに、読みやすさを保ちながら原文とスタイルガイドに忠実にターゲット言語へと置き換えていく作業には、慎重さが求められます。

 

当然、ライティング作業にも慎重さは必要です。自由になにを書いてもOKというわけではないので、クライアントの要望、業界の慣例、事前のリサーチ結果などから離れてはなりません。しかしその上で、読者の行動を呼び起こす文章にするためには、大胆でなければなりません。ありきたりな表現や紋切り型の言い回しを多用したところで、なんとなく「それっぽい」文章ができあがるだけで、説得力はいまいちです。

 

セールスライティングは長年盛んに研究されてきた分野ですので、効果的とされる形式やルールがしっかりと定義されていますが、それらの定石に従いながら遊び心を大胆に取り入れることで、はじめて読み手の心に響く文章になるのではないでしょうか。

 

さて、トランスクリエイションに話を戻します。私がトランスクリエイションの依頼を受ける場合、もしくは明示的にトランスクリエイションと指示されなくても「原文はある程度無視していいので、日本語として読みやすい文章にするように」といった内容の要望があった場合は、この二つの異なる心がけ、「慎重さ」と「大胆さ」の間で一文一文に臨むようにしています。例えるなら、片足を軸足としてしっかり原文に置きながら、もう片方の足をできるだけ大胆に大きく踏み出すようなイメージです。ちょっと微妙な比喩でしょうか・・・。

 

では、原文に軸足さえ置いていれば、どこに足を踏み出してもいいのかというと、それも違います。大胆に足を踏み出す前に、慎重に方向を定めなくてはなりません。私はトランスクリエイションという未だに定義の定まらないこの作業には、いくつも落とし穴が潜んでいると感じています。次回以降、この落とし穴についても考察していきたいと思います。

 

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執筆:
POPA

  • 翻訳者経験3年
  • TOEIC情報なし
  • 英語検定情報なし

トランスマート実績

2016年3月に大手翻訳会社を退職し、現在は自営で翻訳とライティングを行っています。
大学では文章表現を専攻しました。フォーマルな文章からくだけた表現まで、文脈に応じて適切な日本語訳をご提供します。特にキャッチコピーやイメージコピーを含む広報資料などは、最初から日本語で書かれたかのような文章に仕上げます。
ITヘルプデスクとしての勤務経験があり、IT翻訳も得意としています。